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名古屋高等裁判所 平成6年(ネ)333号 判決

名古屋市中区栄3丁目4番21号

控訴人・附帯被控訴人(以下、「控訴人」と言う。)

丸万証券株式会社

右代表者代表取締役

酒井謙太郎

右訴訟代理人弁護士

小栗孝夫

小栗厚紀

石畔重次

後藤脩治

長谷川龍伸

石原金三

花村淑郁

杦田勝彦

石原真二

北口雅章

林輝

《住所略》

被控訴人・附帯控訴人(以下、「被控訴人」と言う。)

福本昌孝

右訴訟代理人弁護士

水野弘章

主文

一  控訴人の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人は、被控訴人に対し、金8701万3904円及び内金6664万9904円に対する平成2年1月31日から、内金2036万4000円に対する同年12月21日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。

四  被控訴人の附帯控訴を棄却する。

五  訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを5分し、その2を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。

2  右部分に係る被控訴人の請求を棄却する。

3  被控訴人の附帯控訴を棄却する。

4  訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  控訴人の控訴を棄却する。

2  原判決を次のとおり変更する。

3  控訴人は、被控訴人に対し、金1億4502万3174円及び内金1億1108万3174円に対する平成2年1月31日から、内金3394万円に対する平成2年12月21日から、それぞれ支払済みまで年11パーセントの割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第1、2審とも、控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張及び証拠

当事者双方の主張及び証拠の関係は、当事者双方の主張として次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示及び当審記録中の証拠に関する目録の記載と同一であるから、これを引用する。

一  控訴人の主張

1  被控訴人の第三次請求(不法行為に基づく損害賠償請求)について

本件売買一任取引当時における被控訴人の年齢、長年の事業経営の経験、本件以前において、他の証券会社との間で多額の資金による同様の売買一任取引をしていたこと、他の証券会社と15回以上も株式の取引をしたこと、控訴人との間で多額の資金で投資信託及び転換社債の取引をしていたこと等からすれば、被控訴人は、株式の取引を中心とする本件売買一任取引について、一般投資者としては相当に高度な知識及び経験を有していたものと認めるのが相当である。被控訴人は、当審において、株式の取引については、全く知識、関心を有していなかったかのように供述しているが、株式の取引が大きい利益が得られる反面危険も多いということは、株式市場に参入していない者でさえも当然に知っていることであるし、右のような多数かつ多額の株式取引等の経験を有することからすれば、到底信用することはできない。そして、利回り保証による本件売買一任取引については、以前と同様な経験に基づき、被控訴人から言い出したものであり、また、その取引契約成立の過程において、控訴人の担当者が社会的相当性を欠くような方法による勧誘をした事実も存しない。

さらに、本件売買一任取引の期間中、控訴人側において、その運用に失敗があった事実も認められない。控訴人の担当者は、当時の証券取引業界の状況からすれば、本件売買一任取引において20パーセント以上の利益を挙げることができると判断していたものであり、この点で、原判決が、「年利11パーセントでの運用をすることが実現できない可能性があることを承知しながら」と説示しているのは誤っている。本件売買一任取引により被控訴人に損失が生じたのは、その後の契約期間中に証券取引業界を襲った急激な不況(バブルの崩壊)が原因となったものであり、当時、そのような状況が来ることを的確に予測することは誰しも困難なことであった。

以上の事実関係からすれば、本件売買一任取引については、到底、控訴人側に不法行為の成立を認めることはできない。

また、仮に、不法行為の成立が認められたとしても、本件売買一任取引が利回り保証と一体不可分の関係において締結されたものであることは明らかであるところ、本件売買一任取引を不法行為ととらえて被控訴人の損害賠償請求を認容することとなれば、被控訴人としては、実質的に利回り保証の約束の履行を受けたことと同一の結果となり、公序良俗違反として利回り保証の契約上の効力を否定することが無意味となってしまうことになる。したがって、民法90条と同趣旨の規定である同法708条を類推適用して、本件損害賠償請求を否定するのが相当である。一般に、不法行為による損害賠償請求を認めることが反社会的行為を認める結果となる場合には、同法708条を適用ないし類推適用して、その請求を認容しないとするのが、通説・判例の承認するところである。

2  過失相殺の割合について

原判決は、不法行為の成立を認めた上で、3割の過失相殺をするのが相当であると判断している。しかし、この3割という過失相殺率は、一定の損失が生じ得ることが当然に予想される証券取引の世界においては、余りにも低きに失する。

証券取引というものは、そもそも絶対に安全で確実なものではなく、多かれ少なかれリスクを伴うものであることは、公知の事実であり、投資家たる者は、投資による利益を享受するだけでなく、投資による損失をも当然に負担する覚悟を持つべきものなのである。証券市場における公正な価格というものは、各投資家がリスクを負いながらそれぞれ自由な判断による投資を行うことによって初めて形成されるものである。このような意味で、証券取引における「自己責任の原則」は、証券市場の公正な価格形成という証券取引法の本質的目的の達成のために譲ることのできない原則であり、そのため、改正証券取引法は、投資家が取引によって損失を被った場合において損失を補填することを刑罰をもってまで厳しく禁止しており、証券取引の分野においては、徹底して「自己責任の原則」を貫徹しようとしているのである。したがって、本件において、仮に控訴人に不法行為責任を認めるとしても、このような証券取引における「自己責任の原則」を基本として、被控訴人の負担に帰するべき割合(過失相殺率)を決定すべきものである。

そして、具体的には、被控訴人自らの意思に基づく証券取引、とりわけ、信用取引の開始、違法な利回り保証の積極的な要求、暴力的威圧力を背後に有しながらの書面の差入れ要求の事実、被控訴人の多くの証券取引の経験、株価暴落時における証券取引の継続等の事情を斟酌すべきであるが、それ以外にも、一般の投資家においても平均株価の下落率程度の損失は皆が被っていたのであるから、右下落率をも考慮して過失相殺率を決定すべきである。ちなみに、本件において被控訴人が1億108万3174円を入金した平成2年1月30日の時点と約定の2年間の運用期間が経過した平成4年1月30日の時点における株価を比較すると、日経平均株価で42.07パーセント、東証株価指数で41.69パーセント、それぞれ下落している。

控訴人の損害賠償責任を認める場合には、以上の諸般の事情を考慮の上、より大幅な過失相殺をすべきである。

3  遅延損害金の発生時期について

原判決も、控訴人と被控訴人との間の証券取引自体は有効と解しているのであるから、遅延損害金の発生時期は、金員等の交付の時点ではなく、2年間の運用期間が経過して損害が発生した時以降、あるいは、被控訴人が控訴人に対して、平成5年10月5日付け準備書面により不法行為に基づく損害賠償請求をした時以降と解すべきである。そもそも、原判決のように、一方では両者間の取引自体は有効としながら、他方では金員等の交付時点を不法行為時点ととらえて、その時点で既に同額の損害が発生していると解するのは、矛盾しているものと言うべきである。

4  弁済の抗弁について

被控訴人は、平成6年4月中旬ごろ、控訴人の元今池支店長代理乙山一郎から、本件の迷惑料として1700万円を受領しており、また、同月25日ごろには、元同支店長甲野太郎から、1700万円を受領している。

したがって、仮に控訴人に使用者責任が認められるとしても、現実の各行為者が迷惑料として被控訴人に支払った右弁済金の合計額は、損害賠償額から控除されて然るべきである。

二  被控訴人の主張

1  原判決は、本件損失保証約束により、具体的、現実に証券市場の正常な価格形成が歪められたか否かについて、被控訴人の主張・立証を待たず、一律に損失保証約束は公序良俗に反し無効と判断した違法がある。

改正前の証券取引法の下において損失保証が禁止されたのは、顧客保護と証券会社の財務の健全性を維持するための単なる行政目的からにすぎず、私法上は、有効と解されてきた。一般国民の通常の意識としても、損失保証が公序良俗違反により無効といった反倫理性、反社会性の強い違法行為であるとは認識されていなかったのである。私法上有効な約束を守ることこそが公序良俗であり、約束を反故にした者が救われるという法律の解釈は誤っているのであって、ここに自己責任の原則を持ち出すのであれば、約束を履行しない証券会社の責任こそが問題とされるべきである。

また、いわゆる「飛ばし」は、改正後の証券取引法下においても、私法上有効と解されており、事故として損失の補填が認められている。しかし、「飛ばし」の実体は、損失保証の一態様であり、これを私法上有効とするのであれば、少なくとも、特金等との結び付きのない個人相手の損失保証も同様に扱われて然るべきものである。

2  原判決は、控訴人の支店長及び支店長代理の地位にあった甲野及び乙山が、甘言(利回り保証約束)によって、履行できない約束をあたかも履行できるかのように見せかけて被控訴人に証券取引を勧めた「いかがわしい」行為を不法行為と認定しているものであって、正当である。商取引に駆け引きは付きものであるが、それでも信義誠実の原則は適用され、積極的に判断を誤らせる勧誘は、不法行為になる。

被控訴人は、証券取引について、知識・経験は無いに等しい。三洋証券との取引は東京銀行の支店長の勧めに基づくものであり、控訴人の本店との取引は東海銀行の支店長の勧めに基づくものである。いずれも、一任取引を伴う資金運用(元金と一定の利回りを保証)の契約であり、被控訴人より能動的に売買を指図した事実はない。このような事情からすれば、原判決は3割の過失相殺をしているが、過大であり不当である。

3  控訴人の弁済の抗弁は、否認する。

理由

一  原判決理由第一項ないし第四項に説示するところは、次のとおり訂正、付加するほか、当裁判所の認定判断と同一であるから、これを引用する。

1  原判決10枚目表9、10行目の「証人甲野太郎、同乙山一郎、原告本人」を「原審及び当審における証人甲野太郎、同乙山一郎及び被控訴人本人」と訂正する。

2  原判決10枚目裏4行目の「建設業を営んでいるものであり、」の次に「昭和62年ごろから、控訴人本店との間で、投資信託等の取引を行っており、また、」と付加し、同5行目の「被告」を「控訴人今池支店」と訂正する。

3  原判決10枚目裏5行目の「三洋証券名古屋支店との間で」の次に「7、8千万円の」と付加する。

4  原判決10枚目裏7行目の「平成2年9月ころ」を「平成元年9月ごろ」と、同9、10行目の「平成3年1月24日」を「平成2年1月24日」と、それぞれ訂正する。

5  原判決11枚目表10行目の「売買一任勘定取引を依頼したものである。」の次に「右利回り保証付きの売買一任勘定取引の話は、控訴人の甲野支店長の方から持ち掛けたものであるが、これに対し、被控訴人は、『三洋証券との間で年1割で一任取引をしているので、それ以上の利率であれば丸万証券と取引する』旨を答えた。」と付加する。

6  原判決11枚目裏7、8行目の「売買一任勘定取引の契約書は作成しなかった。」の次に「なお、証券取引においても、通達等によって、売買一任勘定取引は、原則として禁止されていた。」と付加する。

二  そこで、本件利回り保証契約に基づく被控訴人の主位的請求について判断する。

右のとおり、改正証券取引法が、刑罰をもって利回り保証を禁止し、さらに、顧客が受けた利益を没収・追徴すべきものと定めていることからすれば、改正証券取引法の施行後になされた利回り保証契約が、公序良俗に違反する行為であり、私法上も無効と解すべきことは明らかである。

しかしながら、改正前の証券取引法50条1項3、4号は、証券会社による損失保証や利回り保証の約束を禁止していたものの、それは、主として証券業界における公正な競争を確保しようとする趣旨にあり、右規定に違反した場合においても、免許の取消し等の行政処分が科されるのみで、罰則の規定はなく、顧客に損失が発生した後のいわゆる損失補填については、これを禁止する規定自体が存在しなかったものである。そして、当裁判所に職務上明らかなところによれば、当時の社会一般の常識、証券業界の認識においても、損失保証、損失補填は、それほど反社会性の強い行為と考えられてはおらず、学説・実務においても、損失保証自体は、私法上有効と解されており、実際にも、右証券取引法の改正前においては、特に大口の顧客に対しては何らかの形で損失保証、損失補填を行うのが、証券業界全体の風潮であったものである。

右のような点にかんがみると、右証券取引法の改正前においては、損失保証の合意は、私法上は有効であったと解されるのであり、この点は、前記のとおり、後に法律が改正され、損失保証が刑罰をもって禁止されるようになったとしても、別異に解すべきものではなく、直ちにこれが公序良俗違反として無効となるものではないと解するのが相当である。

もっとも、改正証券取引法50条の3第1項3号は、顧客に損失が生じた後にこれを補填することを禁止しており、規定の上で、これが事前の損失保証の合意の有無ないし合意の時期いかんを問わないものとされていることは明らかである。そうすると、たとい証券取引法の改正前になされた有効な損失保証の合意に基づくものであったとしても、右改正証券取引法の施行後において、右合意の履行として損失補填を行うことは許されないものと言うべきであって、結局、本件利回り保証契約に基づく被控訴人の主位的請求は、裁判上、履行を求めることができないものとして、棄却を免れない。

三  次に、不当利得返還請求権に基づく被控訴人の第二次的請求について判断する。

本件利回り保証約束付きの売買一任勘定取引契約が有効に成立したことは、先に説示したとおりであるから、控訴人が被控訴人から受領した本件金員及び本件株式は、法律上の原因なくして利得したものと言うことはできない。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の第二次的請求は理由がない。

四  そこで、被控訴人の第三次的請求である不法行為に基づく損害賠償請求について検討する。

1  前記の認定事実によれば、控訴人の今池支店長及び同支店長代理の地位にあった甲野及び乙山は、新規に開設された今池支店の営業成績を上げるため、利回り保証約束をして有価証券取引を勧誘することが証券取引法により禁止されていることを知りながら、かつ、経済情勢や株価の趨勢によっては年利11パーセントでの運用が実現できない可能性があることを認識しながら、年利11パーセントで運用することが確実であるかのような虚偽の説明を積極的に行って、新たな取引に消極的であった被控訴人を勧誘し、被控訴人をして、前記のように原則禁止とされている売買一任勘定取引契約を締結させ、本件金員及び本件株式を交付させたものである。右の甲野支店長らの投資勧誘は、積極的に、一般投資家である被控訴人の判断を誤らせるような虚偽の情報を提供し、その自主的かつ自由な責任と判断による投資の決定を妨げて、安易に不当な投資を促し、その結果、被控訴人に多大の損失を被らせたものであるから、その勧誘の態様・方法は、社会的相当性を欠き、商取引上、一般に許容された限界を超える違法なものであって、不法行為を構成するものであると言わなければならない。

そして、被控訴人は、甲野支店長らの不当な投資勧誘がなければ、前記の売買一任勘定取引契約を締結することなく、控訴人に対して本件金員及び本件株式を交付することもなかったから、被控訴人は、右各交付の時点において、交付した各財産の価額と同額の損害を被ったものと認めるのが相当である。したがって、右損害に対する遅延損害金も、右交付の時点から発生するものと言うべきである。

2  控訴人は、被控訴人は自己に存する不法の原因により生じた損害の賠償を請求するものであるから、民法708条を類推適用して、本件損害賠償請求を否定すべきであると主張する。

しかしながら、証券市場における正常な価格形成機能の保持と市場仲介者としての公正性の保持に重大な責任を有する証券会社が、自ら、違法な利回り保証の約束の下に投資の勧誘をして顧客に資金を提供させ、有価証券の取引による手数料収入を得ておきながら、顧客からの損害賠償請求に対しては、投資家の自己責任の原則を強調してこれを拒否し、損失を一方的に顧客の負担に帰せしめるようなことは、同じく不法の原因の存する証券会社をいわれなく利得させるものであって、正義衡平の理念に反するものであり、民法708条ただし書の趣旨に反するものと言うべきである。したがって、利回り保証の約束に基づき投資をした顧客からの損害賠償請求については、不法の原因により生じた損害の賠償を請求するものとして、直ちに法的保護を拒むべきではなく、当事者双方の具体的な諸事情を比較考量し、本件のように、証券会社の側により大きい違法の原因が存すると評価し得るときは、損害賠償の請求を認めるのが相当である(最高裁判所昭和44年9月26日第2小法廷判決・民集23巻9号1727頁参照)。

3  次に、控訴人の過失相殺の主張について検討するに、証券取引は、利益も高い反面、損失の危険も多い取引であって、確定利回りの保証されないものであり、本来、顧客の自己責任の原則によりなすべきものであるところ、被控訴人は、建築業を経営し、控訴人本店との間に投資信託等の取引を行っていて、証券取引について相応の経験と判断力を有していたと認められること、殊に、被控訴人は、本件取引の約2年前から、三洋証券との間で7、8千万円に上る利回り保証付き売買一任勘定取引をしており、本件においても、甲野支店長から同様の取引の話が持ち掛けられると、三洋証券より高率な利回り保証をしてくれれば取引を行う旨答えて、自らも積極的に利回り保証を求め、短期間に多額の利益を得ようとしていること、その他、本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、被控訴人の被った損害額を定めるについては、4割の過失相殺を行うのが相当である。

そうすると、被控訴人の損害額は、平成2年1月30日に交付した1億1108万3174円については、6664万9904円(円未満切捨て)、同年12月20日に交付した3394万円相当の本件株式については、2036万4000円となり、その合計は、8701万3904円となる。

4  甲野支店長らが控訴人の使用人であり、本件不法行為が甲野支店長らの職務行為の一環としてなされたものであることは明らかであるから、控訴人は、民法715条により、被控訴人に対し右損害を賠償する責任がある。

5  なお、控訴人は、本件事案は、損失補填等禁止の適用除外を定めた証券取引法50条の3第3項の「事故」に該当しないから、本件利回り保証約束がなされたことを理由として、控訴人に対し支払を命じることはできない旨主張する。しかし、控訴人の被控訴人に対する本件損害の賠償は、利回り保証の約束の履行ではなく、別個の法律要件を充足する、不法行為に基づく損害賠償義務の履行としてなされるものであって、証券取引法の右規定がこのような損害賠償義務の履行まで禁止しているものと解することはできない。

五  控訴人の弁済の抗弁については、これに沿うがごとき甲17号証の1、2の記載は、たやすく採用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠がない。弁済の事実を否定する当審証人乙山一郎及び同甲野太郎の各証言内容については、控訴人の指摘するような疑義もないではないけれども、その信用性を弾劾する特段の立証もなされていない以上、直ちにこれを虚偽として排斥することはできない。

六  以上によれば、被控訴人の本訴請求のうち、主位的請求及び第二次的請求は、いずれも失当として棄却すべきであるが、第三次的請求は、8701万3904円及び内金6664万9904円に対する不法行為後の平成2年1月31日から、内金2036万4000円に対する同じく不法行為後の同年12月21日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容すべきであり、その余は失当として棄却すべきである。

よって、これと一部結論を異にする原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法96条、89条、92条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 河邉義典 裁判官 岡本岳)

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